アメリカの大企業がゲイたちをひそかに「上客」として狙いはじめる──そのときの『ウォールストリート・ジャーナル』の見出しは「根深い敬遠を捨て、ゲイ社会への企業広告増加」。同じころ、『サンフランシスコ・クロニクル』紙も「隠れた金鉱ゲイ・マーケット」と書きました。『ニューヨーク・タイムズ』も92年3月、「だれもがゲイ・ビジネスに乗り出そうとしている。ストレート(異性愛者)社会の気づかないところで、一般企業までもがみんなゲイ市場になだれ込んでいる」とのマーケッターの分析コメントを掲載しています。
 90年代半ばにかけ、大企業がこうしてゲイ向けのマーケティングを本格化させていきます。アメックスは顧客の財形部門にゲイとレズビアンの担当員を置いてゲイの老後の資産形成などきめ細かな相談に乗りはじめました。アメリカン航空は94年からゲイ専門部門をつくってゲイ・イベントへの格安航空券の提供やゲイの団体旅行割引販売などを企画し成功します。そして95年4月にはニューヨークで初めて『ゲイ・ビジネス・エキスポ』が開かれ、チェイス・マンハッタン銀行やらメットライフ(保険)、メリルリンチ(証券)など、当時は特段ゲイフレンドリーでもなかった企業の投資部門までもが出展しました。当時のルドルフ・ジュリアーニNY市長もその開会式に出席して「ニューヨークがこの素晴らしいエキスポの恒常的な拠点都市になることを希望します」と満面の笑みを浮かべて祝辞を述べたのです。

 今年のゴールデンウィークに開催される『東京レインボープライド2019』には昨年以上の企業協賛がつくでしょう。アメリカやヨーロッパと似た流れが日本にも訪れつつあります。政治うんぬんや宗教的な思惑や偏見で煮詰まったりしているときに、この企業の論理=おカネの論理は時にウンザリするほどわかりやすかったりもします。事実、ゲイの働き手を差別すれば優秀な人材を逃すことにもなると、家族手当や扶養手当などの福利厚生で性的少数者差別を撤廃したのは、まずは民間企業だったのです。

続く。次回は4月10日(水)更新予定です。


*本連載エッセイは、誠文堂新光社ウェブサイト内の「よみものどっとこむ」との連動企画です。

■北丸雄二
ジャーナリスト、コラムニスト、作家、翻訳家/元々は毎日新聞から東京新聞(中日新聞東京本社)に転社した社会部畑の新聞社記者で、クリントンが大統領に就任した1993年にニューヨーク支局長に着任。3年半後の96年夏に帰任を命じられたのを機に退社し、独立。その後もニューヨーク在住のまま、大統領がG・W・ブッシュ〜オバマ〜トランプと変わった2017年まで、計24年間、米国政治・社会・文化、日米及び国際関係の分野でジャーナリズム活動を続ける。18年、実母の老齢化のために拠点を日本に移し、現在は主にトランプ・ウォッチャーとしてTBSラジオやFM TOKYO、大阪MBS及びネットTVなどで米国関連ニュースを解説。一方で、英米文学、ブロードウェイ・ミュージカルや戯曲の翻訳も多く、『世界』『現代思想』『ユリイカ』などで国際情勢から映画、音楽、文芸まで各種評論も行っている。LGBTQ+関連では90年に米国ゲイ文学の金字塔と言われる『ザ・フロント・ランナー』を翻訳刊行したのを機に、新聞業務と並行するライフワークとしてエイズ問題や刻々と拡大する人権状況を取材執筆開始。ニューヨークでは日本人コミュニティ向けにHIV/AIDSの電話相談の開設・運営にも尽力する一方、97年から、日本のゲイ月刊誌『Badi』に米国を中心としたゲイ関連ニュースコラムを連載。同年6月に青土社から刊行の『ゲイ・スタディーズ』(キース・ヴィンセント他著)でも全面的な監修を担当し、ほかにLGBTQ+関連のニュースを報じるプロフェッショナルが誰一人としていなかった当時、『AERA』で「日本に向けて性的マイノリティに関する正しい情報を発信するゲイのジャーナリスト」という紹介記事も掲載された。現在、十年来の同性パートナーと5歳の黒猫とともに東京に暮らす。
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