20年以上にわたってニューヨークで暮らし、アメリカから日本を、そして世界を観てきたジャーナリスト・北丸雄二さん。そこで得た知見をもとに、「LGBT」で人生を読み解きます。

 1カ月のつもりが3カ月もの休載となってしまいました。申し訳ありません。やっと再開できる態勢が整いました。というのもこの間、クラウドファンディングによってエイズ戯曲の傑作とされるラリー・クレイマー作『ノーマル・ハート』を訳了し刊行し、さらに400字詰めで600枚にもなった『LGBTヒストリーブック』も訳し終えてこれも本にして、こちらは12月初めに一般販売の運びとなりました。

 思えばこの2冊はタイミングとしても本連載を続けるにあたっての必要な作業だったのかもしれません。とくに『ヒストリーブック』の方は「絶対に諦めなかった人々の100年の闘い」という副題が示すとおり、これまでほとんどポイント、ポイントでしか紹介されてこなかったLGBTの公民権運動を、ひとつながりの有機的なものとして、体系的かつ時系列に沿って教えてくれるものでした。それはまるで大きな生き物の成長のありさまのようで、翻訳しながら私も大いに勉強になりました。

『LGBTヒストリーブック』

 

12月初旬に一般発刊予定の『LGBTヒストリーブック』。アマゾンなどでも販売されますが、その場合はアマゾンに4割も売り上げを持って行かれるそうなので、版元の「サウザンブックス社」は次の自社サイトで予約購入していただきたいと言っています。弱小出版社にご協力を!


 連載再開はまずはこの本のプロモーションから始めさせてもらいますw。これは主にアメリカにおける歴史を語るものですが、公民権を求める20世紀初頭からのLGBTの運動が先進国の中でとくにアメリカを中心に進んだのには理由があります。1つはそこが厳格なキリスト教プロテスタントの国であったこと。それがこの本にあるガートルード・スタインの「作用と反作用」の言葉どおりに、さまざまな抑圧からの「自由」を希求させる運動につながったのです。そしてさらに、そんな「自由の希求」としての、すなわち「自由であることの権利」の基盤たる「平等」を旗印とする黒人解放運動や女性解放運動が、LGBT解放運動に先行する手本として存在したこともまた大きく寄与しました。

 ガートルード・スタインはこう言っていました──「科学的だと思われている男性たちが、作用と反作用が同じ力で逆に働くという物理学の基本的な原則に自ら気づけないというのはおかしなことです。あなたたちが人々を迫害するたびに、あなたたちはその人たちをより強くより強く立ち上がらせることになるのです」──(本書P.27より抜粋)

 この本の原著はそうしたLGBT公民権運動の営みを現在の十代の子どもたち、若者たち向けに平易に、具体的に語り教える『Gay & Lesbian History for Kids』というタイトルで2015年に刊行されました。執筆にあたって原著者が参考とした文献は、その時代時代を記してきた新聞や書籍やインタビュー記事など延べ300件に及び、登場人物は歴史上の人物から市井の人々まで400人近くに上ります。これはアメリカ式民主主義の見事な教科書であり、かつふんだんな個人エピソードを伴う貴重な実践史となっています。そもそも日本の私たちはなぜ世界の先進30カ国近くが、GDPで言えば計53%を占める国々・地域が同性婚を認めているのか、まだうまく得心していない──。

 本書はそれを説き明かしてくれます。「子どもたち」向けと書きましたが、その平等権の論理の記述にごまかしや妥協はありません。マイノリティたちの権利運動に関して、歴史の浅い日本で巷間よく言われる、社会変革への危惧、不安、躊躇から来る所謂「反対論」の全ては、この本の中にも(つまりは実際の歴史の中に)登場しています。例えばこの人権運動が「少数者たちの特権」を求めるものではないかという論には、最高裁へと続く判例が次のように明快に片をつけています──

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