20年以上にわたってニューヨークで暮らし、アメリカから日本を、そして世界を観てきたジャーナリスト・北丸雄二さん。そこで得た知見をもとに、「LGBT」で人生を読み解きます。

 1950年代から顕著になってきたアメリカの黒人解放運動に、第二次世界大戦が深く影響しています。大戦当時、当然のことながらアメリカ軍は本土を離れ、戦場であるヨーロッパ戦線に出向いて戦います。奴隷制度こそ廃止されて久しかったけれど、それは次に「人種隔離」政策という公の差別制度としてアメリカに残っていました。当然のことに米軍もまた白人部隊と黒人部隊に分かれています。しかも黒人部隊は主要部隊として戦闘に関わる以上にここでも塹壕の設営などの下働きを担わされていました。
 ところが派遣されたイギリスなどでは黒人兵は白人兵とともに部隊を構成しています。人種隔離政策はなく、白人と黒人がともに対等に戦闘に加わる姿をアメリカの黒人たちは初めて目の当たりにするわけです。
 そればかりか彼らはイギリスで、単なるレンガ運びの工兵ではなく共にファシズムと戦う仲間として歓迎された──本土アメリカで直面する現実とは別の現実がそこにはありました。
 いやそれ以上に、あの1984の英作家ジョージ・オーウェルはエッセーの中で、「oversexed, overpaid and over here(頭はセックスのことばかりで、給料ももらいすぎでここにやってきた)」と疎んじられた傲慢なアメリカ兵の中で、唯一「the only American soldiers with decent manners are Negroes.(行儀よく振る舞うのは黒人兵だけ)」とさえ書いています。

 米軍が駐屯した英国イングランドのバンバー・ブリッジという町で、ある黒人兵は次のような思い出も語っています。

At that time the Jitterbug was in and the blacks would get a buggin’ and the English just loved that. We would go into a dance hall and just take over the place because everybody wanted to learn how to do that American dance, the Jitterbug. They went wild over that.

あの頃はジルバが流行っていて、黒人兵たちがジルバを踊るとイギリス人が熱狂してね。俺たちがダンスホールに行くとたちまち我らが独壇場だ。誰もがアメリカのダンス、ジルバの踊り方を知りたがったから。みんな大喜びだったよ。


 あるパブでは女性バーテンダーが、当然のように自分たちが優遇されるべきだと信じている白人米兵たちをまるで犬のように「待て」と諭して、これ見よがしに先に黒人兵たちに酒を振る舞いました。
 もう一人の有名な英作家アンソニー・バージェスもたまたまこの町に滞在していました。そんなバンバー・ブリッジのパブでもアメリカ軍当局はやがて人種隔離をするよう求めたと記しています。そうじゃなきゃ「アメリカ」軍としての示しがつかない。パブの店主たちはそれに応じます。「Black Troops Only(黒人兵以外入店お断り)」という、逆の「人種隔離」ルールで。

 

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