特集:LGBTと行政[中編]

illustration_Kenro Shinchi・文/永易至文(行政書士/特定非営利活動法人 パープル・ハンズ事務局長)

⇒ 特集:LGBTと行政[上編]
⇒ 特集:LGBTと行政[下編]はこちら

日常に密着した自治体だからできること

自治体による「LGBT施策」といえば、前節で取り上げた同性カップル公認がとかく目を引きます。では、その制度がない自治体は、なにも取り組みといえるものはないのでしょうか?

じつは私たちの暮らしに密着した自治体だからこそ、すでにさまざまなかたちでの性的マイノリティをめぐる取り組みが動いています。条例の制定、あるいは指針やプランなど行政文書への書き入れであり、それらにもとづく具体的な取り組みの積み重ねです。

● 条例で性的指向と性自認による差別を禁止

LGBT法連合会の調査によれば、性的マイノリティに関する言及がある条例をもつ自治体は、「男女共同参画」関係では9自治体、「人権」関係では1自治体。指針やプランなどの行政文書では、「男女共同」で21、「人権」では55あります(『「LGBT」差別禁止の法制度って何だろう?』2016年)。ほかにも基本計画などでの言及もあります。

2000年策定の東京都人権施策推進指針には、同性愛者と性同一性障害の項目があり、公的文書で性的マイノリティに言及する先駆け的なものといえます。当時は、社会の性同一性障害への関心の高まりとともに、文書に性同一性障害あるいは性的少数者と記述する例が見られます。議会の議決を経た条例においても、大阪府堺市の男女平等社会の形成の推進に関する条例(2002年)のように、「性同一性障害を有する人、先天的に身体上の性別が不明瞭である人」など、インターセックスの人も含めて言及する例もあります。

その後、2000年代中盤からは、「性的指向及び性同一性障害」など、性的指向にかんする表記もよく見られるようになりました。

さらに2013年、東京の文京区と多摩市で成立した男女平等に関する条例で、性的指向及び性(的)自認による差別の禁止が規定され、注目を集めました。これまでも性別及び性的指向による差別禁止の例はありましたが、性自認の視点を導入したものは初めてだったからです。

当時、区職員として文京区の条例制定にかかわった鈴木秀洋さん(日本大学危機管理学部准教授)は、「自治体の子ども家庭支援センター所長として児童虐待やDV等にかかわるなかで、人びとが、男は男らしく、女は女らしくという規範や固定役割に強くとらわれ、それから外れる子どもへの虐待・いじめがあったり、妻役割からはずれた女性への暴力が起こっていた。それは「命の問題」ともなっている」(前出書、要旨)と指摘します。また、多摩市でも条例をめぐる市議会の議論のなかで「世の中、男と女がいるので別で当然なのだ」と発言し、どうしても性自認や性的指向について意識の点で越えられない人もいたといいます。

性自認という視点の導入は、それまでの「性同一性障害の診断を受けた特定の人への特別な配慮」を求めることにとどまらない、男女二元制とそれにもとづく固定的な性別役割しか許されない社会に悩むすべての人を解き放っていく方向性を持っています。性に関する硬直的な社会こそが、私たち性的マイノリティの生きづらさをもたらしています。性的指向及び性(的)自認による差別の禁止が、性別による差別を禁止する男女平等条例のなかに規定されることには、一貫性があるのです。

国に立法がないなか、自治体レベルですでにこうした条例が制定されていることは重要な事実といえます。

● 職員研修、啓発パンフレット、居場所事業……

条例や指針・計画など行政文書にある記述は、自治体での取り組みの根拠となります。これらにもとづき、ときにはその策定に先立って、各自治体の「女性センター」などを拠点にいろいろな取り組みがなされています。

代表的なものでは、①電話相談で性的マイノリティにも対応、②市民向け啓発講座の開催、があります。

①については性的マイノリティ向け専門ラインを設けたり、当事者団体に委託したり、②も行政が一方的に企画するのではなく、地元の当事者団体などとコラボレーションして実施するなど、多様な取り組み方が見られます。ただ、相談は窓口がよくわからなかったり相談員の技量が維持できているかなど、課題も指摘されます。

こうした取り組みに続けて、③職員への研修、④学校の教職員への研修、⑤啓発パンフレット等の作成、⑥市民報などでの啓発、⑦当事者の居場所・交流事業の開催、などが見られます。③④では、特別区や政令市の職員数は大企業規模となり、そこに所属する人が正確な知識をもつことは、地域社会に大きな変化をもたらしそうです。⑦の居場所事業では、大阪市淀川区や神奈川県横浜市、横須賀市、東京都渋谷区の取り組みなどが知られます。

さらに、自治体によっては、地域のコミュニティ祭りへブースなどを出展、地域内の事業やスポーツチームと連携(地元サッカーチーム琉球FCがユニフォームにレインボーラインを装着)、地域内の大学・学生への啓発、法的政策について地元法科大学院との連携、などに取り組むところもあります。

● あなたの地元でも仲間を見つけ、動いてみよう

条例や指針・行動計画のほかに、「都市宣言」のかたちでユニークな試みをしたのが、沖縄県那覇市の「レインボー宣言」でした。性的マイノリティに特化した宣言文を発表し、自治体として性的マイノリティへの認識を示したものです。

宣言の作成には「なは女性センター」が事務局となり、県内の当事者6団体が意見交換会に集い、当事者へ伝わるメッセージが練られました。また、市の付属機関である男女共同参画会議にもはかられ、市民に伝わるかの視点での検討もされました。

その過程で、「LGBT」の類型的なカテゴリーにとどまらない、それ以外の多様な性を生きる人びと全体も含みこむ表現や、支援してあげる・してもらう的な上下関係を生み出さない表現に工夫がこらされました。宣言は市も共催する性的マイノリティのプライドイベント会場で市長により読み上げられ、行政と地元当事者によるコラボレーションの成功例といえるでしょう。とかく性的マイノリティの活動は東京など大都市ではできても、「地方」では難しいという声をよく聞きます。しかし、地縁血縁が濃いと評される沖縄でこうした活動が進むことは、他の地域にも希望となるのではないでしょうか。

いま、地元をキーワードに当事者や支援者がつながりあい、行政にも働きかける動きが増えてきました。最近も千葉で、福島で、仙台で、札幌で……ネットにもそのような動きが流れてきます。

あなたの住む自治体でも、なにかできることはないでしょうか? 自治体には、教育委員会(教職員)、保健所(メンタルヘルスやHIV)、男女共同参画、人権、福祉(生活保護、貧困)など、さまざまな手がかりがあります。SNSで仲間を呼びかける、交流会や学習会を開いてみる、地元の行政文書や女性センターの活動を調べ参加してみる、そこで仲間を見つける、話を聞いてくれる議員や他の市民運動の人と会ってみる、一緒にやれることを企画してみる、行政文書へ提言を送る……。地元に足をつけた活動が、私たちの暮らしと未来を確実に変化させていくでしょう。

READ MORE!

①『同性パートナーシップ制度』

編著:棚村政行、中川重徳/日本加除出版/2,750円(税別)

副題に「世界の動向・日本の自治体における導入の実際と展望」とあるように、アメリカやフランスをはじめ海外主要国の事例と、渋谷区・世田谷区での立案過程などを詳細に解説した充実の一冊。

②『同性パートナーシップ証明、はじまりました。』

編著:エスムラルダ、KIRA/ポット出版/1,700円(税別)

渋谷区、世田谷区での同性パートナーシップ証明制度の成立をめぐるドキュメントとその手続きの方法を解説。渋谷区第1号カップルが区に提出した公正証書をはじめ収録資料がとても充実。

③『ふたりで安心して最後まで暮らすための本』

著:永易至文/太郎次郎社エディタス/1,500円(税別)

「同性パートナーとのライフプランと法的書面」という副題のとおり、お金、医療、老後から書類作成まで、パートナーシップ制度のない地域の人にも役に立つ実用書。緊急連絡先カード付き。

④『「LGBT」差別禁止の法制度って何だろう?』

編:LGBT法連合会/かもがわ出版/2,200円(税別)

多摩市や文京区、那覇市など10の自治体の先進的なLGBT施策を紹介。実際に施策策定に携わった人たちの声は示唆に富む。巻末にはSOGIを理由に当事者が直面する困難リストが。

*本記事は『BEYOND』issue 3「2017年春号」を一部修正し、転載したものです。

注目ニュース おすすめ記事