外からの新しい風を取り入れる。インクルージョン&ダイバーシティ(I&D)を加速させ、グローバルで勝てる会社に
執行役 Corporate EVP 兼 CHRO 兼 ピープル&カルチャー部門長 堀川大介さん
今年で創立125年を迎えたNEC。同社はここ数年でインクルージョン&ダイバーシティ(I&D※)に関する取り組みを加速させており、その影響か、業績も10年ほど前に迎えていたという低迷期から一転、最高益を見据えるまでの成長を見せている。東京レインボープライドにも2023年から有志メンバーがしており、今年はさらに協賛参画へ拡大し、企業ブースを出展するほか、NECグループ社員でパレードも参加する予定だ。
※NECでは、インクルージョンが発揮されて初めてダイバーシティに価値があると考え、あえてインクルージョンをダイバーシティの前に置いています。
現在も継続している、約11万人の社員の力を最大限に引き出すための「人・カルチャーの変革」とはいったいどのようなものだろうか。CHRO(Chief Human Resources Officer)兼 ピープル&カルチャー部門長 堀川大介さんに話を聞いた。
取材・文/もうすん 撮影/清原明音
ー堀川さんが部門長を務める「ピープル&カルチャー部門」とはどのような部署でしょうか。
これまで「人事・総務」と呼んでいた部門を「ピープル&カルチャー」と名称変更しています。そう呼ぶところに思いがありまして、社員一人ひとりの強みや個性を活かし、適時適所適材を実現することで、旧来のカルチャーを変えていく。グローバルで勝てる人・組織をつくることが私の仕事です。
ー社内でのLGBTQに関する取り組みをお聞かせください。
LGBTQに関する本格的な取り組みは2019年から、経営戦略としてI&Dを推進する動きが始まりました。社内規定の改定や相談窓口の設置などのハード面を整備し、2022年には社内有志によるアライのコミュニティも立ち上がりました。
アライコミュニティは50人ほどのメンバーで始まったのですが、現在は100人程度に増えてきています。そのコミュニティを継続し活性化させるために、役員クラスの人間がエグゼクティブスポンサーとして就任しています。
また、上から意識を変えていくということも大切ですので、役員の研修にも新しいものを取り入れています。マイノリティから見た時にマジョリティがどう見えているのかということを体験できるワークショップを上智大学の出口真紀子教授をお招きして開催しました。
毎年6月のプライド月間にはLGBTQ当事者を社内にお迎えしてセミナーを開催しており、今までサリー楓さんや西村宏堂さんにご登壇をいただきました。
その他、食堂も私の管轄なのですが、よくあるような大企業の社食というイメージの場所から、「食を伴う共創空間」として形を変え、メニュー企画についても、外部のプロデュースやコラボレーションを積極的に取り入れています。プライド月間には、啓発を兼ねてレインボーカラーのメニューを取り入れるなど、楽しみながら理解を深められるような施策を常に考えています。
「潰れてもおかしくなかった」
実行力をつけるための構造改革
ーI&Dを経営戦略に組み込むまでの流れを教えてください。
ここ10年でNECは大きく変わりました。10年前はNECが経営的にとても厳しかった時期でもあります。現在は株価も10,000円を超えてきていますが、当時はいつ潰れてもおかしくないような状態でした。
2000年代以降GAFAをはじめとした外資企業や新興国が台頭し、日本がかつてナンバーワンだった領域がどんどん奪われていき、大きな構造改革を迫られていたんですね。
もちろん様々な取り組みを実施したのですが、なかなか結果に繋がりませんでした。我々に足りなかったのは結果を出すまでやりきる「実行力」だったんです。それまでのNECは中期経営計画をまともに達成出来たことがなく、計画を作っては1〜2年で頓挫することを繰り返していました。それでは株主や社員の信頼を得ることはできませんよね。
「実行力の改革」にようやく行き着いたのが2018年で、「Project RISE」と称したカルチャー変革のプロジェクトを始動させ、人事制度や働き方、コミュニケーション改革を推進しました。
ーどのような取り組みをされたのでしょうか。
まず当時の社長(現会長)の新野が、社員とのダイアログセッションを全国で実施しました。社長自ら社員の声を聞くというのは当時のNECとしては画期的なことで、経営層まで届かなかった社員の率直な意見をたくさん聞くことができました。「保守的」、「スピードが遅い」、「責任の所在があいまい」など厳しい声が次々と出てきました。これらの社員の声を起点に改めて変革のキードライバーを整理し、カルチャー変革をスタートさせました。
具体的には社員共通の行動基準「Code of Values」を策定し、業績だけでなく行動面を人事評価に組み込んだり、社員のキャリア形成をサポートする人材公募やリスキリングの仕組みなどを導入しました。またハード面・ソフト面での働き方を見直し、Smart Workや、健康経営・ウェルビーイングなど様々な施策を実行してきました。
ーその中にI&Dに関しての取り組みもあったのでしょうか。
2018年に新設したカルチャー変革本部の組織長や、CGO(Chief Global Officer)などのキーポジションに社外から採用した人材を登用し、これまでのNECにはなかった新しい仕組みや方法を導入していきました。NECはそれまで新卒採用がメインの同質性の高い組織で成長してきましたが、変化のスピードが格段に上がった環境において、グローバルで勝てる会社になるために、社外で活躍してきた人材を登用し、前例に囚われない抜本的な改革が必要と当時の経営陣は決断したのです。
ー意思決定層が新しくなったことによる社内の反応はどのようなものでしたか。
良かった点は、外から新しいカルチャーが入ってきた時に、NECにはそれを受容する素地があったことです。新しいものにアレルギーを起こすのではなく、良いものは良いものと認めて受け入れる力をNECは潜在的に持っていたんですね。
現在は、年間で新卒採用約600人に対してキャリア採用も約600人と、同じ割合まで増えました。それまでは新卒採用チームがキャリア採用も担っていましたが、キャリア採用に特化したチームを作り、競合他社に先駆けて独自の仕組みを整備しました。キャリア採用者とプロパー人材とが融合することで、多様性を生かした変革をさらに加速させています。
より深層の「本質」へ
多様な人材が活躍できる環境づくり
ー多様な人材を活躍させるためにどのような取り組みを行っていますか。
本年度からNECを対象にジョブ型人材マネジメントを本格展開しています。これまでは、今あるリソースを使って最大限に成果を出していく仕組みでしたが、ジョブ型により、戦略実行のために最適な人材を社内外から適時適所に登用し、多様な個々が強みや個性を活かしながら、チーム・組織としてパフォーマンスを最大化していくことが求められるようになります。
よくジョブ型を語るときに、スポーツに例えるのですが、サッカーやラグビーのワールドカップなどの日本代表のように、出身地や所属チームの異なる選手が集まって、個々がプロとして動きながら、互いを活かしあい、チームとして大きな力を発揮することと同じと捉えています。
個々の自律を促しながら、チームをまとめあげるマネジメント層の強化に今、取り組んでいるところです。
またオフィスは、チームやチーム間で共創するために、フロアごとに「Communication Hub」を設けたり、社外の方も入れて一緒にイノベーションを生み出す「Innovation Hub」を設置するなど工夫をしています。
TRPを通じて
新しいNECを伝えたい
ー今年のTRPには、より大規模な協賛を予定されていますが、協賛を拡大するに至った経緯を教えてください。
I&Dは、単なる属性の違いというだけではなく、深層心理にある価値観や考え方などの違いをお互いが尊重して、相互理解を深めることだと思います。人間がひとりひとり違うのは当たり前で、それぞれの持つ強みや個性をぶつけ合い、認め合い、チームの付加価値としてイノベーションに繋げていける風土を養うことを目指しています。
この10年間のNECの変化というのは、まさにそれを実践してきた結果ではないでしょうか。この変革は今後も続けていきますし、さらにこれを加速させていきたいと考えています。今回の東京レインボープライド2024のゴールドパートナーとしての協賛もその一つです。今年はブース出展のほか、皆でレインボーロゴのTシャツを着てパレードを歩く予定にしています。
今年でNECは125年目で、老舗でちょっとお堅い会社というイメージが世間的にあるとは思うんですが、最近入ってきたキャリア採用の社員からは、こんなに変わっているとは思わなかったと驚きの声をもらうことが多いんですね。東京レインボープライドを通じて、参加者の皆さんにも、新しいNECを感じ取っていただけると嬉しいです。