EEDIは「当たり前にあるべきもの」。社内へ、そして医療業界へと広がるアッヴィの取り組み

アッヴィは、米国に本社を置き、世界175カ国以上で製品を販売するグローバルな研究開発型のバイオ医薬品企業。その日本法人であるアッヴィ合同会社は、医薬品の開発や提供のみならず、社会貢献活動を重要視しており、SDGsへの取り組みはもちろん、EEDI(公平・平等・ダイバーシティ&インクルージョン)を掲げ、多様な人材が日々イノベーションを生み出す環境を実現している。

そんなアッヴィは日本において、ERG(従業員リソースグループ)「Pride」を中心に社内外への取り組みを続け、2023年の「Work With Pride」では最高評価となるレインボーを取得。東京レインボープライド2024には初となる企業ブースも出展予定で、より活動の幅を広げている。「Pride」で共同リーダーを務める田島正浩さんと松永剛祐さんにアッヴィのEEDIに対する取り組みについて話を聞いた。

カスタマーエクセレンス本部 ブランドチームパートナー 統轄部長 田島正浩さん イミュノロジー事業本部 消化器領域事業部 営業統轄部長 松永剛祐さん
カスタマーエクセレンス本部 ブランドチームパートナー 統轄部長 田島正浩さん
イミュノロジー事業本部 消化器領域事業部 営業統轄部長 松永剛祐さん

ーアッヴィ合同会社はどのような会社ですか。

田島正浩さん(以下、田島) アッヴィはノースシカゴに本社を持つ製薬会社です。主要領域は免疫疾患やウイルス感染症、精神神経領域、がんで、世界175カ国以上で製品を販売しています。グローバルには約5万人の社員がおり、そのうち日本法人は1800人を超えます。

ーEEDIに対する考え方について教えてください。

松永剛祐さん(以下、松永) まず、我々の行動のベースとなる信条の「私たちの約束(Our Principles)」は、弊社グローバル全体で企業理念として掲げられており、「ダイバーシティとインクルージョン」が明記されています。これは、それぞれ皆さんが自分らしく働けるということが重要で、性別だけではなくさまざまな属性にかかるバイアスというものを抜きにして、自分らしくパフォーマンスを発揮できるように、という考えです。

ERGが2021年に発足、2022年に始動する前からEEDIに関する取り組みは始まっています。当たり前にあるべきものなので、当たり前になっていないのは困るだろう。そんなニュアンスだと私はとらえていて、その中でもバイアスがまだまだ強いのがPrideに関する部分なのかなと思っています。

ーEEDIを実現する社内制度にはどのようなものがありますか。

松永 たとえば、弊社では、”My Journey, My Choice”を導入し、どんなバックグラウンドを持った人も、どんなライフ・ステージにあっても、アッヴィでの働き方・生き方を自ら選択することで、働きがい・生きがいを感じながら、成長に挑戦し続けることを推進しています。その取り組みの一つとして、「ドレス・フォー・ユア・デイ」という、その日の自身の業務に応じて自分で選択した好きな服装で出社できる制度があり、社員1人1人がその日に合った服装で、自由に自己表現できるようになっています。また、同性パートナーや同性婚についても、すべて「家族」として、異性パートナーや異性婚と同様の補助や手当を得られるようになっています。

my journey, my choice

医療業界の理解促進と
社内の認知向上に取り組み続けるERG

ーERG(従業員リソースグループ)について教えてください。

田島 アッヴィのERGは、社員が手上げ式で会社全体のEEDIを経営層と一体となって推進するもので、「Gender」「Ability」「Generations」そして「Pride」という4つのグループがあります。私は2022年からPrideのリーダーを務めていまして、今年で3年目になります。

松永さんは今年から一緒にリーダーをやってくれています。これまで他のプロジェクトでも一緒に仕事をしていて、そのインフルエンス力の強さを以前から感じていました。考え方も柔軟で、一緒にいろんなことを考えていくパートナーとして最適だと思っていました。

ーERGではどのような活動をされているのでしょうか。

田島 Prideは我々の顧客や社会に対して働きかける社外向けの活動を行うチームと、社員に対する社内啓発活動のチームに分かれて活動を行っています。

トータルで数えると現在13〜15程度の活動をしているのですが、社外向けのもので2つピックアップしますと、医療従事者の方々が参加される学会の隣に、LGBTQ+についての啓発を行うブースを設け、我々の取り組みや、LGBTQ+当事者の方々が医療サービスを受ける際の課題などを紹介しました。

学会に設置したブースの模様
学会に設置したブースの模様

また、製薬会社4社のアライアンス「Pharma for Pride」としての活動も行っています。昨年は各社の社員向けのレクチャーと、ドクター向けのイベントとしてLGBTQ+の方々がどんなことで困られているのか、医療現場ではどのような工夫が可能なのかなどについて虹色ドクターズ所属の医師よりご紹介いただきました。

松永 社内向けの活動としては、1800人を超える社員の認知度をまず上げていくということが非常に重要であり、認知を超えてアライになってくれる人を増やすための活動をしています。そのひとつとして、社内でオープンハウスの形でアライを募り、アライであるメンバー同士でコミュニケーションを取れるようなイベントを定期的に開催しています。

従業員の中で営業がかなりの割合を占める会社なので、本社はともかく各営業所まで浸透というとなかなか難しいところがありまして、そのためにE-learningを使って、ERGの取り組みや活動内容、そして基本的な「知っておいてもらいたいこと」を受講してもらいました。任意ですが、かなりの方が受講してくれました。

ー現在、社内でアライと自認されている方はどれくらいいるのでしょうか。

松永 従業員の約10%が現在アライ宣言をしています。最終的には、50%くらいまでは目指したいという風に考えています。

田島 私の記憶では、立ち上げ時にアライを宣言してくれた人は20数名ほどだったと思います。毎年EEDIに関するアンケート調査を従業員向けにやっているんですけれども、昨年の結果を見ますと、回答者の90%以上が自分はアライだと思うと答えてくれました。潜在的なアライはいるのですが、今後どうアライ宣言(自身の名前を含めて宣言)につなげていくか、それをどう可視化していくかが課題だと考えています。

インタビューを受ける田島正浩さん(カスタマーエクセレンス本部 ブランドチームパートナー 統轄部長)と松永剛祐さん(イミュノロジー事業本部 消化器領域事業部 営業統轄部長)

ー社内に向けてのアライを増やす取り組みには他にどのようなものがありますか。

松永 一例を挙げると、先日社内のLGBTQ+の研修で、当事者の方々に対して配慮のない会話の事例を解説するような動画を撮影して、流したのですが、非常に反響がありました。私と田島が動画に出演し、ダメな管理職になりきったのですが、我々、会社の中では目立つポジションだということでして(笑)、「あの二人が・・・」と意外性がちょっとした話題になりましたね。

社内研修動画の一場面。配慮の無い会話の一例を示している
社内研修動画の一場面。配慮の無い会話の一例を示している

とはいえ、おそらく一番影響があるのはネックストラップだと思います。また、各営業所にはPrideチームが作成した社内向けのポスターを掲示しており、毎日目に触れられる状況になっているため、興味を持つきっかけになっていると思います。

田島 Prideチームのメンバーも立ち上げ時はわずか10数名ほどだったのが24名にまで増えてきているんです。タッチポイントを多く持つことで仲間が増えてきており、大変うれしく思います。

レインボーネックストラップ、ポスター、レインボーフラッグ

「もう、そういう思いをする方を見たくない」
リーダーが活動を続ける原動力

ーお二人がそういった取り組みを続ける原動力はどこにあるのでしょうか。

松永 私自身はけっこう田舎の出身で、田舎ってけっこうバイアスというか偏見が強いところが残っていますよね。自分もどちらかというともともとバイアスを持っている人間だと思っています。

しかし私はセールスリーダーで、チームを牽引するポジションでもあります。自分のチームにも当事者がいるだろうと考えた時、そのバイアスがあることで力を発揮できない人がいるならばバイアスは絶対に取るべきであり、学ばなければいけないと感じました。完全に理解しあうことは難しいかもしれないですが、お互いを知ることによって「お互い様」の気持ちが生まれればと思っています。

イミュノロジー事業本部 消化器領域事業部 営業統轄部長 松永剛祐さん

田島 実はERGのリーダーは基本的に2年で交代をすることになっているのですが、私の場合は強いパッションもありまして、続投させてもらっています。2021年にEEDIに関してのパネルディスカッションがあったんですが、その時に私はセクシャルマイノリティの友人の話をしたことがありまして。

30年ほど前のことになるんですが、私はイギリスに住んでいました。海外では私も「日本人」というマイノリティで、当時のイギリスには強い差別がありました。肌の色で住めない地域もあったくらいで、入れないパブがあったり、石を投げられたりということも経験しました。

カスタマーエクセレンス本部 ブランドチームパートナー 統轄部長 田島正浩さん

そういった時に助けてくれたのはセクシャルマイノリティの友人たちでした。その時の感謝ももちろんあるのですが、その後働くようになってから、一緒に働いていてカミングアウトをしてくれていた友人が、社内の差別や偏見で苦しんでいる姿を横で見ていまして。

当時の私は彼に何もできず、そのまま彼は会社を辞めてしまいました。とても優秀な方で、会社にとっても間違いなく損失だったとも思います。私は友人としても会社としても、こういう思いをする方を見たくないと思うようになり、前職の時からこういった活動に参加をするようになりました。

最大限に楽しみながら
知識も得られるブース出展を

ー東京レインボープライド2024では、アッヴィとして初となるブースの出展を予定されています。

田島 去年はスモールチームでパレードに参加したんですよね。その時に社長やシニアマネージャーが来ていて、今年はもっと大きくやろうと今回のブース出展に繋がっています。パレードへの参加予定者も年々増えてきていまして、今年はすでに170人ほどの参加希望が来ています。

松永 我々が熱量を持ってやっていることを、まず社長が特に評価をしてくれ全面的なバックアップをしてくれています。それはグローバルも同じです。

田島 社長はさまざまなところで私たちのLGBTQ+に関する活動を紹介してくれています。パレードも先陣を切って歩いていた…というか、踊っていましたね(笑)。それで全体の士気も上がったと言いますか。

TRP2023、パレードの様子TRP2023、パレードの様子

ー出展ブースはどのような内容を予定されていますか。

田島 弊社には美容医療領域もありまして、肌診断の機械を体験できるような企画を予定しています。また、来場者の皆さんから医療機関で困っていることなどの「生の声」を伺う場にできたらと思っています。

松永 一方でパネル展示を予定しています。アッヴィのEEDIに関する取り組みや人事制度のほか、LGBTQ+やPrideに関する歴史を紹介する予定になっています。

背景としましては、ERGのメンバーがPrideの歴史について学んだことがきっかけです。ストーンウォール事件をきっかけにPrideが始まって、全米・全世界に波及していったという歴史を聞いて、メンバー全員が感銘を受けました。こういった歴史の上に今があるということを参加者の皆さんにも知っていただければと思っています。

ー最後に、意気込みをお聞かせください。

田島 今年はきっと昨年以上に参加人数も増えてくるので、東京レインボープライドの熱量を皆さんにも感じてほしいですし、パレードを歩く時の沿道からいただける応援とポジティブなエネルギーを持って帰って、家庭や職場で話し合うきっかけにしてほしいなと思っています。

松永 「楽しむ!」の一言ですね。楽しむ=笑顔を作れるということだと思います。関わるすべての人々に笑顔を届けられるように、当日を楽しみにしています!

ERGのメンバー集合写真