人こそが価値を生む。ID&Eは「経営戦略の中核」キンドリルジャパンの社員が持つ「思い」とは
2021年の誕生以降、東京レインボープライドへの協賛を続けているキンドリルジャパン。ID&E(インクルージョン・ダイバーシティ&エクイティ)は経営戦略に組み込まれ、KINs(Kyndryl Inclusion Networks)というERG(従業員リソースグループ)を中心に社内外で積極的な活動を続けている。その取り組みが評価され、Work With Prideでは創業直後から2年連続のゴールド認定を受けている。キンドリルジャパンのカルチャーを作るその仕組みや、そこで活動するメンバーの思いとは。
インクルージョン・ダイバーシティ&エクイティ担当 専務執行役員の松本紗代子さん、ERG「LGBTQ+」のエグゼグティブスポンサーを務めるインダストリー統括 製造事業本部長 執行役員 塩見寛行さん、ERGのメンバーとして活動する三田彩乃さん、塚本真由さん、須藤理子さん、松本彩奈さんに話を聞いた。
取材・文/もうすん 撮影/清原明音
登壇者
インダストリー統括 製造事業本部長 執行役員 塩見寛行さん
プラクティス事業本部長 兼 インクルージョン・ダイバーシティ&エクイティ担当 専務執行役員 松本紗代子さん
金融第一事業本部 Customer Partner 兼 KINs LGBTQ+ Japan Community Co-chair 三田彩乃さん
金融第一事業本部 Customer Partner 兼 KINs LGBTQ+ Japan Community Co-chair 塚本真由さん
プラクティス事業本部 デジタルワークプレイス 兼 KINs LGBTQ+ Japan Community Member 須藤理子さん
プラクティス事業本部 デジタルワークプレイス 兼 KINs LGBTQ+ Japan Community Member 松本彩奈さん
ーキンドリルジャパンとはどのような会社なのでしょうか。
松本紗代子さん<以下、松本(紗)> キンドリルジャパンは企業や政府、公共団体などが業務を行う上でミッションクリティカル(業務遂行に必要不可欠)な基幹システムのインフラを支える企業として2021年に誕生しました。世界の金融機関のおよそ6割以上、通信や小売、自動車などの企業のおおよそ半分は私たちのお客様で、お客様のビジネスや国の成長・継続に必要不可欠な役目を担っています。
私たちのブランドアイデンティティは「社会成長の生命線」です。例えば皆さんは日々、電車に乗って改札を通ったりとか、ATMでお金を引き落としたりとかされると思うんですけれども、そういったものの全てのシステム、ひいては日常生活が滞りなく動くように、私たちの社員が24時間365日それをお守りしてるんですね。企業として社会インフラを支える役割を担っている、ここにいる社員の人たちも全員含めて、私は誇りに思ってます。
ーID&Eの推進に関して会社としてどのように捉えていますか。
松本(紗) ID&Eは明確に「経営戦略の中核」です。私たちは製品を持たず、人が人に対してサービスを提供する会社で、「人」に最も価値を置いています。私たちが社会やお客様に対して自分たちの提供価値を最大限発揮しようと思ったら、ここにいる社員一人ひとりがやはりベストなパフォーマンスを発揮し、その総和を大きくすることです。そのためにはインクルーシブな環境が必要不可欠であると定義づけており、それなしでは私たちの会社は成り立たないと考えています。
弊社にはKINs(Kyndryl Inclusion Networks)というERG(従業員リソースグループ)がありまして、「LGBTQ+」「Women」「True Ability」の3つが活動しており、それぞれに役員がエグゼクティブスポンサーとしてついています。
LGBTQ+に関しては、日本では会社がKINsという形を作る前から独自にコミュニティが立ち上がっていまして、ERG(従業員リソースグループ)としての歴史が一番長いものになっています。私たちもインクルーシブなカルチャーが必要だと思っていたところ、米国本社が始める前に自主的に立ち上げたというのは非常にキンドリルらしいと思っています。
こういったERGでの活動をすることに対しての会社としての支援といいますか、推進していく仕組みのひとつに、年間の目標設定があります。私たちが設定する目標の半分はそれぞれが担当するビジネスに関するものなんですが、半分は他者への貢献なんです。かつ、現在は会社の発足時よりも、その割合を増やしています。他者に対して貢献する人をきちんと評価する仕組みがあるというところも、とてもキンドリルらしいと感じています。
塩見寛行さん(以下、塩見) LGBTQ+コミュニティのエグゼクティブスポンサーを担当しております。スポンサーとしてやるべきことは、まずコミュニティの皆さんが活動しやすく支援していくことです。もう一つ重要なのは、発信して認知してもらうための活動です。しっかりと会社としての理解が得られるように役員陣と共有し、定期的に社員の皆さんにもメッセージを出すことで、取り組んでいることを認知してもらうことが、すごく大切だと考えています。
と言いますのも、このコミュニティは、当事者の人達だけで構成されているわけではありません。多くのメンバーは当事者ではないけれども、共感し、応援したいという気持ちで集まり、運営されています。メッセージを発信し続けることで、こういったアライが多くいて、活動をしているということを知ってもらいたいですし、それを受けて、当事者の人たちに安心してもらえたらと思います。
また、我々の活動が当事者にとっても本当に価値のあるものにしていきたいと考えています。そういった意味でも、当事者の人がどんどん意見を言いやすくなるようなオープンなコミュニティ・会社になっていくことが大切だと考えています。
社内外へ広がる取り組みで
レインボー認定を目指す
ーKINsのLGBTQ+コミュニティの具体的な活動内容について教えて下さい。
須藤理子さん(以下、須藤) 定期的な活動としては、月に一度IBMと共同で、LGBTQ+について話し合う場「アライラウンジ」というイベントを行っています。あとはIT企業がLGBTQ+への取り組みを推進する集まりの場「NIJIT(ニジット)」というものがありまして、そちらでイベントを開催しています。
また、東京レインボープライドへの参加や、6月のプライド月間にもイベントを行っています。プライドマンスにはウィークリーでイベントを行い、2022年にはドラァグ・クイーンのドリアン・ロロブリジーダさんの講演、そして2023年にはBusiness for Marriage Equality 代表理事 寺原 真希子さんとINCLUSION SENSEI創業者 / Workplace Pride Consultant 金 由梨さんをご招待し、講演会を実施しました。
塚本真由さん(以下、塚本) キンドリルが発足してからTRPへの参加は毎年行っていまして、その準備は年間の中でも大きなものになっています。TRP2024では、ブースの出展に加え、会社として初めてパレードにも参加するので、今から楽しみです。
松本(紗) ワールドワイドでは「Pride Powering Progress」という、 社員の皆さんが共通したフォーマットで自分のコミットメントを書いてSNSで発信するというキャンペーンをやりました。とても「キンドリルらしさ」を感じる取り組みだったかと思います。
キャンペーン「Pride Powering Progress」イメージ
ー今後の取り組みについての方向性はいかがでしょうか。
塩見 「Work With Pride」で2年連続でゴールドを取得できているのですが、今年は、より他社様との連携をすることで、コレクティブインパクトを生み出せるように取り組んでいきたいと考えています。おかげ様で、他社様からのお声がけをいただく機会も増えてきています。
松本(紗) 社長さんや経営陣の前で話してほしいというご依頼を非常に多くいただきます。お話を伺っていると、LGBTQ+のコミュニティって、他のERGよりも後発で始まった企業さんが多くて、どうやって立ち上げるか、どうしたら社内での認知度を上げられるか迷われていらっしゃるんですね。その一番お困りの内容に合わせてどのKINsの人に一緒に出ていただくか、どのような形式でお話をするかを考えています。
メンバーたちが
活動を続ける原動力は?
ー東京レインボープライド2024のテーマは「変わるまで、あきらめない」です。会社として諦めずに続けていることはなんでしょうか。
塩見 キンドリルジャパンは約4000人の社員がいるのですが、アライの人数は180人です。これは、まだまだ少ないと思っていまして、今年は少なくとも400人以上になればと思っています。アライが増えてくれるタイミングというのは、我々が何かのメッセージを出したり、イベントを開催した時が多いので、ここは継続していきたいと思います。
コミュニティも一時の盛り上がりではなく、継続して活動していけるように、リーダーのバトンを定期的に違う方に渡していくっていうやり方を考えていまして、今の三田さんで三番目になります。今日参加してくれている皆さんにも期待しているんですが、そのうちバトンを受け取ってくれるといいなと考えています。
ー経営戦略であり、活動をきちんと評価される仕組みがあることがキンドリルジャパンの活動の源泉だと伺いましたが、皆さんのお話を伺っていると、それだけではないエネルギーを感じます。
塚本 このコミュニティに参加したのは、私の周囲にいたLGBTQ+の友人たちの存在がきっかけでした。その方々のお話をよく聞くことがあって、理解を個人的に示すことはできるんですが、それで支援できるのはあくまで友人のみでした。友人だけではなく幅広い方々、弊社に所属している当事者の方へ支援がしたいと考えています。
三田彩乃さん 私自身は海外生まれのバイリンガルで、幼い頃は地方で暮らしていた経験もあり比較的「マイノリティー」として見られる環境にいました。私はただ私であるだけなのに「人とは違う部分」だけに興味を持たれて、周囲と馴染めないという居心地の悪さを感じながら生きてきました。私はAllyですが、この国でマイノリティーでいる不快さというのを理解できるので、どんな人であれこのような思いはしてほしくないと思い、この活動を続けているのだと思います。LGBTQ+だけではなく、性別や人種によらずどんな人でも受け入れられ、皆がより活躍できる会社や社会になるといいなと思っています。
松本彩奈さん 私はこのコミュニティに入っていて、アライとして当事者の方の気持ちに寄り添うのはもちろんですが、それだけでは足りないと感じています。当事者だけではなくその他の人々にも意見を聞き、双方の理解を得ながらコミュニティを成長させること、そしてLGBTQ+を取り巻く課題をもっと日常化していくことを目指しています。
須藤 私は、TRP2023に参加するまで社内にこういうコミュニティがあって活動をしていたことを知らなかったんです。私自身こうして活動に参加するようになったため、これからは「知ってもらう機会」を増やしていきたいと思っています。TRPでもプライド月間でも、きっかけはなんでもいいと思っていて。そこからそれぞれが考えることで、良い方向に向かっていければと思っています。
松本(紗) 私は次世代を「今より必ず良くすること」をあきらめず続けています。私自身も、日本で女性の営業職かつエグゼクティブは本当にマイノリティでしかない存在でした。どのような属性でもマイノリティがどれだけ大変かは実感として持っているつもりです。その大変さを、次の世代に残したくないという気持ちが自分の中でものすごく強いんです。
自分がこのインクルージョンのチームを立ち上げて、手を挙げてリーダーになって、社外に出て話すまでに活動が広がってきたのは、ID&Eが一企業だけではなくて、社会として解いていくべき話だからと考えています。そういう気持ちがあるからこそ、私は活動を続けていて、自分をモチベートし続けられているのだと思います。