「現場から 社会を動かし 未来へつなぐ」。
LGBTQ+が安心して働ける現場づくり通じて、より良い未来を

パナソニックグループにおいて、B2Bソリューション事業の中核を担うパナソニック コネクト株式会社(以下パナソニック コネクト)。昨年初参加し、今年はトップスポンサーとして東京レインボープライド(以下TRP)に参加するとともに、Diversity, Equity & Inclusion(以下DEI)に取り組む他の企業と「レインボービジネスネットワーク」を結成するなど、その取り組みを社外へと広げている。同社がなぜDEIに取り組むのか、TRPへの意気込みとともに、代表取締役の樋口 泰行様、DEI担当役員である西川 岳志様、山口 有希子様、そしてDEI推進室の油田 さなえ様にお話を聞いた。

パナソニック コネクト株式会社
代表取締役 執行役員 プレジデント・CEO
樋口 泰行様(写真右より2番目)

代表取締役 執行役員 シニア・ヴァイス・プレジデント
チーフ・ファイナンシャル・オフィサー(CFO)(兼)経理・財務本部 マネージングダイレクター、DEI推進担当
西川 岳志様(写真左)

取締役 執行役員 シニア・ヴァイス・プレジデント
チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)(兼)デザイン&マーケティング本部 マネージングダイレクター、DEI推進担当、カルチャー&マインド改革推進担当
山口 有希子様(写真左より2番目)

人事総務本部 DEI推進室 シニアマネージャー
油田 さなえ様(写真右)

取材・文/辻田 健作
写真/清原 明音


DEIは一企業だけの問題ではなく日本全体の問題。B2B領域の企業として、DEIを牽引していきたい。

ー まずは、パナソニック コネクトがどのような会社なのか、お聞かせください。

 樋口 泰行様(以下樋口) パナソニック コネクトは、パナソニックグループの​B2Bソリューション事業の中核企業です。パナソニックというと、家電をはじめとする一般消費者向けのビジネスを想像するかもしれません。私たちは、企業のお客様や公共サービス、生活インフラなど多彩なお客様の「現場」に寄り添い、課題解決に向けた新しいソリューションを提供しています。

ー なぜ、パナソニック コネクトは、TRPのスポンサーをはじめ、DEIに取り組むのでしょうか。

樋口 私たちはダイバーシティ(多様性)を重要視しています。多様でインクルーシブ(包摂的)でなければ、企業は生き延びられない。いろいろな考え方の人たちが集まって、切磋琢磨することは、企業のイノベーションの源泉になります。そして、多様性を考える上では、LGBTQ+を取り巻く課題に取り組むのは当然です。

これまでの日本は、同質性が非常に高い社会でした。ビジネスモデルも戦い方も多様化する中で、多様なものの見方ができないと生き延びられない。DEIは一企業だけの問題ではなく、日本全体の問題だと思います。

B2Bの領域をビジネスドメインとしている当社がTRPのトップスポンサーとなることで、多くの企業がLGBTQ+をはじめとする、DEIに取り組んでいけるよう、リードしていきたいと考えています。

ALLYからはじまる、ALLYからつながる

ー TRP2024に向けた貴社のテーマとして、ALLYという言葉がたびたび登場します。この重要性についてお聞かせください。

樋口 ALLY(アライ)とは心の応援だと思うんです。ALLYであることを宣言して、応援の気持ちを表明することが、第一歩。直接的な支援ももちろん大事ですが、まずは、支援する姿勢を示すことが大切です。「あらゆる人権を守る」という当たり前の行動として、社内全体でALLYを増やし、全員がお互いの個性と価値観を理解し、尊重し合える組織となっていきたいと思っています。

西川 私は、ALLYであることの方が普通な気がしています。誰もが、人生のどこかのタイミングでマイノリティになることがある。ALLYとは、どんな属性の人、お困りごとがある人にも「私は真摯に向かい合える」ことを示すということなんだと思います。ALLYが社内に溢れている会社は、互いが互いを支えられるいい会社になれる。そして、その中でイノベーションが生まれる。そうしたより良い企業カルチャーは、必ず企業としての競争力にも繋がってくると考えています。

山口 DEIに力を入れるのは、人権に配慮した「人に優しい企業」にならないと、従業員一人ひとりがモチベーションを高く持って働ける、健全な企業カルチャーが作れないからです。なぜ困っている人がいるのか、泣いている人がいるのか、それを知り理解しないと、真に人に優しい会社にはなれない。私たちが率先して取り組みを進めることによって、更には「人に優しい社会」をつくっていける可能性がある。そういう意味で、ALLYを増やしていくことはとても重要です。

ー TRP2024のテーマは「変わるまで、あきらめない」。社会がどのように変化することを望んでいますか?

山口 日本が変わるまで、あきらめずに続けていかなければいけないことは、婚姻の平等をはじめとする、LGBTQ+に関連する法整備です。当社の従業員はもちろん、多くの人たちが安心して働くためには、社会の環境や制度を整えていくことが重要です。

TRPをはじめとするイベントへの参加を通じて、社会に対してその必要性を伝えることで、当事者の方々が働きやすい、暮らしやすい社会づくりにつなげていきたいと考えています。

西川 今年もできるだけ多くの従業員に、TRPに参加してほしいと思っています。従業員がプライドと情熱を持ってパレードを歩くことにより、社内においては心理的安全性を高めることにつなげたいですし、また社会に対しても、ポジティブなインパクトを与えていけるのではないかと信じています。

本気でDEIに取り組んだら、組織は変わる

ー TRP以外にも貴社のDEIの取り組みを教えていただけますか?

油田 「DEIキャラバン」という活動があります。これは、DEIの担当役員である西川と山口、そして私たちDEI推進室のメンバーが、年1回・3ヶ月くらいかけて全国の拠点を回りながら、ラウンドテーブルを開催し、従業員の声を聞くというものです。その中で上がった課題を、次のDEIの活動としてつなげていきます。2023年度は、15部門・8拠点・142名の従業員に直接会って、本当にたくさんの率直な意見を聞きました。

西川 代表の樋口が着任してから約7年間、この「DEIキャラバン」を続けてきていますが、近年、DEIを7年間推進してきた効果が徐々に出てきていることを実感しています。ようやく、約1万人強の従業員がぐっと動いてきているな、と感じることが多く、嬉しく思っています。

山口 「DEIを何でやるのか」というより「DEIは当たり前」、という雰囲気になりつつあります。本気でDEIに取り組んだら、組織は変わります。大切なのは現場です。現場で起こっている問題や、現場にある改革のヒントを知るためには、従業員の生の声に耳を傾けることが必要です。地方を含めて全国に拠点があるので、その状況を経営層がしっかりと把握することが重要です。

油田 さらに今年からは「Gemba Roundtable(現場ラウンドテーブル)~現場から始まる、働きやすさの未来会議~」をはじめました。これまで行っていた「DEIキャラバン」よりもさらにディスカッション性を重視した場です。1月に初めて開催し、西川と山口にCHROの新家を加えた役員3名、全社の公募で手を挙げたメンバー6名、そして私たちDEI推進室が一緒にテーブルを囲み、『2040年、私たちは「多様な家族」を前提とした働き方ができているか?』をテーマにディスカッションをしました。

今後は、例えば、同性パートナー家族や、単身高齢者世帯、多国籍家族が増えるなど、私たちが当たり前だと思っている家族に加え、新しい家族の割合が増えていくと言われています。その中で、様々な家族にとっての未来の働き方や課題を想像し、働きやすい会社にするために具体的に「やりたいこと」「やめたいこと」をメンバー全員で議論しました。

山口 ディスカッションにあたっては、社外の有識者の方にお越しいただき、結婚制度や同性婚、パートナーシップ制度など国内外の事情について、改めて全員で学びました。その上で、会社としてどういったサポートが必要なんだろうということを議論し、非常に刺激的でした。

「変わるまで、あきらめない」。情熱を一番持っているトップスポンサーとして、社会を変えていきたい

ー TRPの当日に向けた、皆さんの想いをお聞かせください。

樋口 私たちは、「変わるまで、あきらめない」という気持ちをはじめ、情熱を一番持っているトップスポンサーを目指しており、そして社会を変えていきたいと考えています。経営陣が率先して参加することも大切です。私も当日、他の役員や従業員とともにパレードを歩いて、楽しんでこようと思っています。

山口 今年で、日本でプライドパレードがはじまって30年。私達が変わること、発信することで、世の中がよりよくなってほしいと思っています。TRPを通じて、参加するさまざまな企業の皆さんとも連携をし、明るく楽しい、より良い社会をつくっていきたい。パナソニック コネクトも、そうした活動に積極的に関与していきたいと思います。

西川 昨年、初めてTRPに参加して、目から鱗ではなく、それを飛び越えて、体に電流が流れるような衝撃を受けました。この衝撃をできるだけ多くの人に経験してほしいと思っています。その経験をした人が、私のように衝撃を受けて、周りの10人、20人に対して語って伝えていく。そうすると掛け算で、加速度的に社内に理解者が広まっていければと思います。

油田 昨年は、長女と一緒にプライドパレードを歩いたのですが、彼女の中でも新たな想いがあったようです。昨年は従業員の家族やパートナーの方にも参加いただきましたが、今年はさらに「ご友人もぜひ誘って一緒に参加してください」と拡大しました。パレードを一つのきっかけにし、パナソニック コネクトの従業員から周囲に向けて、ALLYをどんどん波及していきたいと思っています。そのために、社内でも「ALLY 1,000人計画」というプロジェクトをスタートさせました。

また、今年は初めてブースを出展します。フォトブース、年齢・性別・運動神経に関わらず誰もが楽しめるゲームを準備しています。多くの方にぜひお越しいただきたいです。

他の企業も巻き込み、社会を動かし、より良い未来につなげていく。そんなことを仕掛けていく

ー 企業のつながりということでは、貴社も立ち上げメンバーである「レインボービジネスネットワーク」があります。

山口 B2B企業である当社がDEIに積極的に取り組み、他の企業ともつながりながら共に学び合っていく。DEIに取り組むことが企業にとって当たり前のことになればと考えています。その中でも、LGBTQ+に関しては多くの企業が悩みながら取り組んでいるという声をよく聞きます。そこで、日経BP総合研究所 人的資本経営フェローの一木 裕佳さん、東京レインボープライド/フリー株式会社の吉村 美音さんと企画し、ALLY企業のつながりの場として、この2月に「レインボービジネスネットワーク」を発足させました。

企業は、ひとり一人の従業員が、最大限に能力を発揮して欲しいと思っているはずです。そのためには、安心して働ける環境づくりが何より重要です。しかし1社だけがそのような環境になったとしても、その安心感はなかなか社会において実感することができない。そこで、企業同士がつながって、企業ができること・変えなければいけないことについて一緒に考え、そして「ALLY企業」を増やしていくこと。そうした目的をもったネットワークです。ALLY企業が増えれば、今まで変わらなかったものも変えることができる、そんなパワーの源になると考えています。

油田 2月27日に「レインボービジネスネットワーク」初回の勉強会を、事務局の1つである当社で開催し、70社の企業から120名超の方にお越しいただきました。次回は6月のプライドマンスにイベントを行う予定です。企業でDEIに取り組まれている多くの方々、特にLGBTQ+関連の取組みに悩んでいる方、他企業と交流しながら一緒に推進したい方にぜひ参加していただきたいと思っています。

山口 パナソニック コネクトのパーパスは、「現場から 社会を動かし 未来へつなぐ」。働く現場で、LGBTQ+の皆さんが安心して働ける現場を、私たちが率先して作っていく。そのことが他の企業にも伝播し、社会を動かし、より良い未来につながっていくことを目指しています。

日本全体や制度を変えていくには、1社だけでなく、たくさんの企業が集まることによって、具体的に「変える」原動力になる。その第一歩になればいいと考えています。

ーありがとうございました。