平等(イクオリティ)をコアバリューとする会社における、当事者と上長のリアルなコミュニケーション
長年にわたり、平等(イクオリティ)をコアバリューとして掲げ、グローバル全体でダイバーシティ&インクルージョン(D&I)に取り組み続け、カルチャーとして根付いているセールスフォース。今回は、株式会社セールスフォース・ジャパンのLGBTQ+当事者とその上長へ、実際にどのような対話を重ね、理解し合ってきたのかを聞いた。
ソリューション統括本部 MuleSoft本部 第一ソリューション部 部長 小島 賢二さん(写真・左)
ソリューション統括本部 MuleSoft本部 第一ソリューション部 シニアアカウントSE 相場 謙治さん(写真・右)
聞き手・文/御代 貴子
写真/清原 明音
この会社だからこそ、チーム内の自然な会話の中でカミングアウトした
――まず、お二人の業務内容について教えてください。
小島賢二さん(以下、小島) 私は、システム連携ソフトウェア「MuleSoft」を担当するエンジニア部門の部長職です。営業部員と連携しながら、お客様の課題を解決するためのソリューションを提案する役割を担っています。
相場さんは部門のメンバーの一人で、2年ほど一緒に仕事をしています。
――相場さんは、上長である小島さんへLGBTQ+当事者であるとカミングアウトしたと伺っています。その背景や、カミングアウトしたときのことをお聞かせいただけますか。
相場謙治さん(以下、相場) 私は前職の会社で、同性パートナーを配偶者と同等にみなす制度があり、宣誓書を書いたことをきっかけに「これからはオープンにして生きていこう」と決めました。
小島さんには面談の時間をもらって伝えたわけではなく、部門でテーマを設けて意見交換する場で同性婚を議題にした際に、自然とカミングアウトした形です。多様性を認め合う心理的安全性が担保されている組織だからこそ、このような何気ない会話の中で話せたのだと思います。
数年前、転職活動をしている中で、当社がLGBTQ+の取り組みを推進していると知り、はじめからセクシュアリティを隠さない心づもりで入社しました。入社直後の研修でも、性的指向やジェンダー自認を祝福する社内コミュニティ「Outforce」の存在や、当事者に寄り添った福利厚生があることについて、当事者の社員から説明があったのです。多様性を受け入れる風土がある会社だとわかり、これから働くうえで安心感がもてたことを覚えています。
3回転職をしていますが、ここまで平等というコアバリューの実現に注力してD&Iを推進し、現場でも当たり前になっているほど浸透している会社に出会ったのは、当社が初めてでした。
――小島さんは、相場さんのセクシュアリティを知ったとき、どのように受け止めましたか。
小島 違和感なく受け止めました。当社はマネージャーに対するD&I教育がかなり入念に行われていますし、私の前職でもLGBTQ+への取り組みが行われていたことも影響しているのかもしれません。
また、海外出張に行くと現地のメンバーがディナーの場に同性パートナーを連れてくることもありますから、ごく一般的なことだと思っています。
――普段の業務でコミュニケーションを取る際に、意識していることはありますか。
小島 バイアスを排除し、プライバシーを尊重することです。マネージャー研修でも教育を受けていますし、組織文化として根付いていることを感じます。
そのうえで、相場さんだけに気を遣うようなことはありません。すべてのメンバーに対して、コアバリューのひとつでもある「平等(イクオリティ)」に接しています。目標数字の達成に対してパフォーマンスに基づいた中立的なフィードバックをするのも、もちろん平等です。
相場 私も特別扱いをしてもらいたいわけではありませんから、平等であることで居心地のよさを感じています。かつて勤務した会社ではカミングアウトをしていなかったため、差別的な発言があっても反論できず、雑談の中でちょっとした嘘をつかなければならない心苦しさがありました。「ここで働き続けられるのか」という不安を抱えながら仕事をしていたこともありました。あの頃を思い返すと、セールスフォースに転職してよかったと心から思います。
「平等(イクオリティ)」を実現し、社会を変えていく姿勢を貫く
――セールスフォースでは、創業以来ずっとD&Iの取り組みを重要視してきたと伺っています。
小島 そうですね。コアバリューが全社員の行動指針になっており、毎年の研修ではコアバリューをテーマにしたプレゼンテーションを行い、当社が社会へどのようなメッセージを発信すべきかを考えるんです。定期的にD&Iを考える場があることで、カルチャーとして浸透していると感じます。
また、多様性のある組織をつくるために、2026年末までにグローバルにおいて女性およびノンバイナリーを自認する従業員比率を40%にするなど、具体的な数値目標を開示しています。世の中にこうしたコミットメントをすることは、ビジネスは社会を変えるための最良のプラットフォームでありたいという会社の姿勢の現れだと思っています。
相場 コアバリューに含まれているからこそ、優先度を上げてこのテーマに向き合い続けられたのであり、当社の強みのひとつにもなっていると思います。「平等(イクオリティ)」のコアバリューは、製品にも反映されているんです。たとえば、Einstein Trust Layerがあることで、お客様はデータ・セキュリティとプライバシーを損なうことなく生成AIの恩恵を受けることができるといったことですね。
そして、私は社内コミュニティ「Outforce」に参加し、さまざまな活動を行っています。外部の方をお招きしてセミナーを開催するなど社内外での啓発活動のほか、東京レインボープライド(以下、TRP)への協賛もコミュニティ活動の一環です。
小島 こうした取り組みは業務とは切り離されたものと捉えられがちですが、業務と異なる世界の情報に触れることで、イノベーションに繋がったり、エンゲージメントが高まったりします。そして最終的には利益創出に影響を及ぼしていることがデータからも実証されているのです。
こうした考えのもと、当社は「1-1-1モデル(株式の1%、就業時間の1%、製品の1%を社会に還元する社会貢献モデル)」を推奨しており、社員はボランティア活動などにも積極的に参加しています。
相場 ボランティアへは、部門単位、チーム単位でも参加することがあります。この活動を通して相互理解が深まり、チームビルディングができていると感じますね。お互いを理解しているからこそ、平等な組織が実現できているとも思います。
自分のセクシュアリティに悩む当事者がいなくなるまで、活動を続けたい
――今後、セールスフォースとしてどのような活動ができると、社会のD&Iが促進されると思いますか。
小島 継続することが何より大切だと思います。当社が長年にわたって、平等(イクオリティ)をコアバリューとして掲げて取り組み続けた結果として、私たちはより良い会社になっていると考えています。
近頃は採用面接において、候補者からD&Iへの取り組みや「1-1-1モデル」に関する質問を受けることが多くなりました。「セールスフォースがD&Iへの取り組みを推進していることを魅力に感じて、求人へ応募しました」と話してくれる候補者もいます。
当社が続けてきた取り組みや発信するメッセージが、幅広い方々に伝わっていることを実感しているところです。
相場 コミュニティなどで活動をしていると、他の当事者の方から感謝の言葉をかけてもらうことがある一方、社内にはまだ、職場でカミングアウトできないと話す当事者もいます。
私は小島さんという上司が受け入れてくれましたが、セクシュアリティを隠して悩んでいる社員がまだいる以上、啓発活動は続ける必要があると思っていますし、「Outforce」としてはそういった方々が悩みを共有できるクローズドな対話の場も設けたいと考えています。
そして、当事者がカミングアウトするのは難しいものですが、自分がリスクを取らないと進展しないこともあります。当事者自身が一歩踏み出すことで物事を進めることも、継続には必要なのかもしれません。
――最後に、2024年のTRPにどのようなことを期待しているかをお聞かせください。
小島 多くの人がこの機会を知って参加し、さまざまな刺激を受けることが重要だと思います。それによって、少しずつ社会の認識が変わっていくことを期待しています。
相場 私は長年にわたり、さまざまな立場でTRPへ参加してきました。TRPの規模が年々大きくなり、今年は平日を含む3日間開催になったことを思うと、社会の変化の兆しを感じます。
一方、日本国内に目を向けると、同性婚の法整備が進展しないなどの課題を抱え続けています。反対意見をもつ人と対立するのではなく、お互いの理解を深めながら、実現に向けて歩んでいければと思っています。