社会の変わる「その先」へ。セールスフォース・ジャパンの「平等」を体現する従業員リソースグループ
TOKYO RAINBOW PRIDE(以下、TRP)への協賛を続けるセールスフォース・ジャパン。
LGBTQ+だけではなく、さまざまな平等(イクオリティ)を目指した従業員リソースグループ(以下、イクオリティグループ)が多数存在し、それぞれの目的に向かって日々活動している。今回はセールスフォース・ジャパンの5つのイクオリティグループに参加している従業員に集まってもらい話を聞いた。
取材・文/もうすん
写真提供:セールスフォース・ジャパン
登壇者:
伊藤 龍玄(水色のTシャツ)
ビジネスオペレーション統括本部 トレイルヘッドアカデミー部門 インストラクター
「Outforce(以下、アウトフォース)」(LGBTQ+とそのアライによる従業員リソースグループ)
一瀬 優菜(緑色のTシャツ)
カスタマーサクセス統括本部 テクニカルサポート部 サポートエンジニア
「Earthforce(以下、アースフォース)」(地球環境に配慮しサステナビリティを推進する従業員リソースグループ)
柳澤 恵(紫色のTシャツ)
クラウドセールス統括本部 Sales Enablement 製品担当マネージャー
「Salesforce Women’s Network(以下、SWN)」(職場における女性の活躍を推進する従業員リソースグループ)
大田 麻衣(紺色のTシャツ)
カスタマーサクセス統括本部 カスタマーサクセスグループ 製品マネージャー
「Abilityforce(以下、アビリティフォース)」(障害のある従業員や家族に障害のある従業員、またその支援者による従業員リソースグループ)
菊地 真美(グレーのTシャツ)
人事本部 シニアスペシャリスト
「Salesforce Parents and Families(以下、SPF)」(育児や介護など家族に関するさまざまなフェーズに関して取り組む従業員リソースグループ)
会社の惜しみないサポートが、従業員主導の活動を後押しする
セールスフォース・ジャパンは、サンフランシスコに本社を置く、顧客管理や営業支援サービスを提供する企業、Salesforceの日本法人だ。創業当時からビジネスと社会貢献を両立するための統合的な社会貢献モデルを確立するとともに、信頼、カスタマーサクセス、イノベーション、平等(イクオリティ)、サステナビリティという5つのコアバリュー(大切にする価値観)を指針としているという。
――セールスフォース・ジャパンが、さまざまな出自やマイノリティに関する従業員グループが多数活動しているのは、どのような背景によるものでしょうか?
大田 麻衣(以下、大田) セールスフォース・ジャパンでは、ビジネスと社会貢献を両立させる「1−1−1モデル」を創業当時から実践しています。「就業時間の1%、株式の1%、製品の1%」を社会に還元するというモデルです。従業員が就業時間中に任意のボランティア活動を行うこと、NPO団体などに助成金を提供すること、また、我々の製品を無償または割引価格でNPO団体に使っていただくことを柱として社会貢献を行っています。
また、Salesforceには5つのコアバリューの中にある平等の価値観に基づいて従業員が自主的に始め、活動しているイクオリティグループが世界に13あります。これらのイクオリティグループは、全社で平等を推進している「オフィス・オブ・イクオリティ」のサポートを得ながら、それぞれ同じような興味・関心を持っている従業員が集まるコミュニティです。
伊藤 龍玄(以下、伊藤) Salesforceは立ち上げのときから「ビジネスは社会を変えるための最良のプラットフォーム」という信念をもとにしていることもあり、さまざまなマイノリティが自分らしく活躍できているかを大切にしている会社だと思います。
――イクオリティグループの活動が活発なのはどのような理由がありますか?
伊藤 3つキーワードがあると思っていて、「従業員主導のグループであること」「役員がスポンサーについていること」「Slackでのコミュニティが作られていること」です。
1つ目ですが、一般的に会社での平等に関する活動は人事が主導して行うことが多いかと思います。もちろん、Salesforceにも全社で平等を推進する専門部署「オフィス・オブ・イクオリティ」があるのですが、同時に従業員の自主的な活動が活発であることも大きな特徴だと考えています。
2つ目に、従業員主導の活動においても、やはり役員クラスの経営層のサポートは重要だと思っています。
各イクオリティグループには役員のアドバイザーがついています。例えば私が所属する「アウトフォース」では、イベントの時にアドバイザーの役員が登壇することもあるのですが、リーダーがそのように前に出て発言してくれることで従業員の注目を集め、同時に励みにもなっていると思います。
3つ目は、各イクオリティグループのSlackチャンネルでコミュニティができていて、自由に発信をする環境が整っている点です。イベントのお知らせや必要な連絡だけではなく、最近感じたこと・気になったことなどを共有しコメントしあえる場所があることは、当事者にとっても、そのアライ(当事者を支援する人々)とっても心強いことだと感じています。
日本で活動する、5つのイクオリティグループ
――では、皆さんがそれぞれ所属しているグループについて教えてください。
伊藤 アウトフォースは、性的指向・性自認に関わらず平等な扱いを求める従業員グループです。TRPをはじめとしたイベント活動を柱のひとつにしております。過去にははるな愛さんをお呼びしてトランスジェンダー認知週間にあわせてイベントを行ったほか、アライの従業員にフォーカスをしてそれぞれのストーリーを語りあうイベントなどを企画しています。福利厚生制度に対する意見を提供することもありますし、メディアからの取材に対し当事者として自身の経験を取材で話すこともあります。
柳澤 私が所属しているSWNは、Salesforceの中で一番歴史が古いイクオリティグループです。Salesforceの立ち上げ当初からすでに顕在化していたことなのですが、テック業界は男性が主流で、女性の活躍はまだ少ない時代でした。
そこで女性が働きやすい環境を作っていくということが課題としてあり、その問題に取り組むために、Salesforceの共同創業者であるパーカー・ハリスがスポンサーとなり発足したグループです。
メンバーおよび、エグゼクティブ・スポンサーも男性・女性両方がおり、女性だけの問題としてではなく、様々な立場から活動をしています。活動は大きく3つに分けて「キャリアアップ」「支え合い」「認知向上」を目的として、外部の講師に来ていただいたり、育休や産休をとる方とその経験者が話し合えるお茶会などの場を設定したり、今年は女性の健康という観点で認知度を上げるような活動をしています。
大田 アビリティフォースでは、当事者・家族・同僚・アライの方を含めて一緒に活動しています。10数人くらいが中心となってイベントを企画しています。さまざまな障害に関する認知度の向上や、手話の体験会や、オフィスでの盲導犬との歩行体験といったイベントを企画しています。
一瀬 優菜(以下、一瀬) アースフォースは、地球環境に配慮しサステナビリティを推進するチームです。地球環境とひとえに言っても多面的な問題が絡み合っているため3つのグループに分かれています。「人間以外の生物にも優しい社会に」「水と森を守ろう」「再生エネ利用を増やそう!」といったように、それぞれのテーマに関心を持つ人たちが活動しています。
菊地 真美(以下、菊地) 私の所属するSPFは「セールスフォース・ペアレンツ・アンド・ファミリーズ」という長い名前なのですが、日焼け止めと同じようにSPFと略しています(笑)。私達は昨年会社に正式に認められたイクオリティグループで、今年がはじめて年間通して活動を行う年になります。名前の通り、育児や介護など「家族」に対するあらゆるフェーズに対してのアウェアネスを上げていくことや、あらゆるフェーズにいる従業員をサポートしていこうというものです。
グループ同士が協力しあい、さまざまな立場・視点からの活動を実現
――それぞれのイクオリティグループは独立をして活動しているのでしょうか?
菊地 他のグループと連携して活動することもあります。SPFでは、SWNと連携して、育休から復職したママに登壇してもらい、これから育休を取る方に向けたイベントを行いました。また、アビリティフォースと連携して「子どもの発達障害」に関するイベントも行いました。当事者の目線に合わせたイベントは過去に開催されたことはあるのですが、今回は「親の目線」で、一般の学校で育てる方針か、専門の支援学校に入れるという方針の考えの違うお二人に登壇いただきました。いろんな視点の話が聞けるということで、従業員からもとても反響が大きく、有意義なセッションだったと思っています。
伊藤 アウトフォースでもSPFと連携し、自分の子どもがLGBTQ+の当事者の場合にどのように接していけばいいか?というテーマでコラボイベントを行いました。当事者だけにフォーカスしたイベントは過去にもやっているのですが、自分とは違うのかな、と思ってる層も一定数いたように思います。
「自分の子ども」というテーマにすることで、より自分ごと化しやすくなったのでしょうか。積極的にコメントをくださる方なども多く、かなり共感を呼ぶものだったと思っています。
――素晴らしいシナジーを生んでいるのですね。会社制度に影響を及ぼすことはあるのでしょうか?
伊藤 アウトフォースでは、会社の福利厚生制度の整備にも協力しました。2021年にグローバル共通の福利厚生制度で「ジェンダーインクルーシブベネフィット」という、トランスセクシュアル当事者向けの制度ができたのですが、性的適合手術費用の補助だけではなく、衣服を購入するための費用なども支援内容に含めてほしいという意見を出したことで、グローバルの制度の中でそれがカバーされることになり利用する当事者側の意見を盛り込んだ制度となりました。また、同性パートナーシップならびに任意後見制度を利用する従業員向けの日本独自の福利厚生制度であるパートナーシップ制度の整備では、申請の費用や公正証書作成の費用の補助についても、当事者の方にヒアリングをするなど、人事と協働しました。
大田 イクオリティグループの助言が会社の部署の設立につながったこともありました。例えば、アビリティフォースのメンバーが、会社に従業員やSalesforceの製品を利用するお客様や会社のイベントなど、会社が提供するリソースの全てに関わるアクセシビリティの課題を解決していくための役割が必要だと経営層に働きかけたことをきっかけに、2019年に当社のお客様や従業員に向けたアクセシビリティを推進するオフィス・オブ・アクセシビリティというチームが立ち上がりました。その後、2020年にはアクセシビリティに関するお客様からのお問い合わせに専門的に対応するチームがカスタマーサクセスグループの中に立ち上げられています。
それぞれが考える「変わるまで、続けること」とは?
――それぞれのグループで社会貢献活動に関わる皆さんは、今年のTRPのコンセプトである「変わるまで、続ける」こと、変わってほしいものはなんでしょうか?
一瀬 考えたのですが、結論として社会課題に対して従業員主導の活動を続けてこれたということは、裏を返せば「(世界や社会の状況が)変わらなかったからこそ、活動を続けてきた」ということなのではないかと考えています。誰もが豊かさを感じて納得できる社会、誰かの豊かさのために誰かにしわ寄せがいかない社会。それが実現されるまで、河川のクリーンアップ、食や日用品を通じたサステナブルなライフスタイルの提案などアースフォースでの地道な啓発活動は終わらないと考えています。
菊地 SPFが扱っているテーマで一番わかりやすいのは「男性の育休取得」だと思っています。特に営業などのカスタマーフェイシングの従業員は休みが取りづらい環境にあると思うので、その雰囲気を変えていくことを続けていきたいと考えています。
昨年は法定の育児休業の内容を上回る、「有給として取得できるSalesforce独自の育児休暇制度」が導入されたので、休業中に家族で子どもに対してどういったケアができるのか、どんな素敵な時間が待っているかを伝えていけるかを今検討しているところです。
大田 私自身も左半身麻痺という障害の当事者ではあるのですが、仕事をする上では全く障害を感じていませんでした。見た目の上でも、ビデオ越しだと障害があることをわかってもらえないくらいです。でも社会には障害があるがゆえに困難を抱えている方もたくさんいます。Salesforceのイクオリティグループを通じて、そういった情報を発信し続けることの大切さを学びました。また、「障害の社会モデル*」についても考えを深めることができました。今後も障害は当事者にあるのではなく社会全体の問題として考えていかなければならないというメッセージを発信し続けたいと考えています。
*「障害=バリア」は、社会(モノ、環境、人的環境等)と心身機能の特性(障害)のミスマッチによってつくりだされており、その障壁を取り除くのは社会の責務であるとし、社会全体の問題として捉える考え方。
柳澤 私自身、社会において男性多数派を占める環境に居心地の悪さを感じたり、前職でセクハラに遭った時に、周りの先輩や同僚が相談に乗ってくれたことで支えられていたので、同様に私も次の世代をサポートしていきたいと思っています。ですが、できれば次の世代には同じような嫌な経験はしてほしくないので、身の回りの社会から変えていく活動を続けています。「昔はそんなことがあったんですか?」って言われるくらい、もうSWNを必要としない社会が早く来るといいなと思いながら活動を続けています。
伊藤 アウトフォースにおける「変わるまで、続ける」ことですが、婚姻の平等をひとつの大きなマイルストーンとして設定しており、その活動の一環として「公益社団法人Marriage for All Japan」に賛同したり、各地で開催されるプライドイベントに協賛するといった支援をしています。
ただ、婚姻の平等が実現したら終わりなのではなく、そこから始まることもたくさんあると思います。例えば名字をどうするのか、子どもをどう持つのか、子どもがすこやかに育つにはどういう環境が必要なのか。平等が成立されてからはじめて起こる議論もあると思っているので、達成されたら終わりではなく、「変わってからも続けること」は多くあるととらえています。
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それぞれで活動し、時には交わりながら、「変わるまで、続ける」の先すらも見据えている、セールスフォース・ジャパンのイクオリティグループ。自発的な活動と、それを支える会社の十分なバックアップが、社会を変える大きなエネルギーを生んでいく。