DE&I推進へ舵を切る金融グループ。三井住友トラスト・ホールディングスが目指す「社会課題解決」への道

左から三井住友信託銀行株式会社 人事部 DE&I推進室 山岸俊之さん、三井住友トラストパナソニックファイナンス 人事部 上席理事 狩野 薫さん、三井住友信託銀行株式会社 常務執行役員 藤沢 卓己さん、三井住友信託銀行株式会社 Well-being推進担当 執行役員矢島 美代さん、三井住友トラストパナソニックファイナンス 人事部 D&I推進室 塩崎真理さん(※各所属は取材時点のもの)

2022年、国内金融機関として初めて「Business for Marriage Equality」と「LGBT平等サポート宣言」に賛同した三井住友トラスト・ホールディングス。2023年には東京レインボープライドへの協賛を開始し、DE&I推進が加速している。

グループ全体で、企業で、そしてそれぞれの地域の支店で行われているさまざまな取り組みの全体像を、三井住友信託銀行人事部の山岸俊之さん、そしてDE&Iに関する取り組みを共に推進している二社の担当者を交えて語っていただいた。

三井住友信託銀行 兼三井住友トラスト・ホールディングス 人事部DE&I推進室 山岸俊之さん

【登壇者】
三井住友信託銀行 兼 三井住友トラスト・ホールディングス 人事部DE&I推進室 山岸俊之さん
三井住友トラスト・パナソニックファイナンス人事部 D&I推進室 塩崎真理さん
日興アセットマネジメント グローバルテクノロジー本部/Japan LGBTQ グループ共同リーダー 赤尾幸俊さん

「お客さま起点」からグループ全体へ
各社それぞれのアプローチで進めるDE&I

ー三井住友トラスト・グループとはどのような企業なのでしょうか。

山岸俊之さん(以下、山岸) 三井住友トラスト・グループは、「信託の力」でお客さまのニーズにお応えし社会課題を解決することでビジネスを続け、今年で創業100年を迎えました。

お客さまや社会から「信じて託される」、「未来への願い」に応える存在であり続ける、という強い意志を表す『託された未来をひらく』というブランドスローガンを掲げています。

三井住友トラスト・グループ全体では関係会社をすべて含めるとかなりの数になるので、今回は特に取り組みが進んでいる三社のお話をさせていただければと思います。

ー金融業界にはいわゆる”お固い”イメージがあったのですが、DE&Iを推進する転換点はどのようなものだったのでしょうか。

山岸 私たちグループの取り組みは「お客さま起点」で始まっております。私自身、今は人事部の立場ですが、かつては銀行の支店におりました。ある時、同性カップルでパートナーがいらっしゃるお客さまから「一緒に住んでいるパートナーに財産を遺したい」とご相談をいただいたのですが、同性婚が法制化されていない国内の現状では、遺言書の作成などの対策を行わないと同性カップルのパートナーへ財産を遺すことはできない状況です。

お客様自身はそのような状況をご認識されていなかったのですが、同様のケースは銀行全体で考えると決して少なくない事例だろうと課題感を覚えまして、社内のビジネスプラン・コンテスト「未来フェス」にこのテーマでの取り組みを提案し、現在に至ります。

当初はLGBTQ+の方々に向けた商品を作ることを一つの目標として置いていたのですが、実際に当事者の皆さんのお話や、さまざまなアドバイスをいただく中で、企業としてLGBTQ+フレンドリーであることや、アライな姿勢を示すことの方がより重要であると感じました。2021年より人事部のD&I推進室に異動し、グループ全体でのDE&I推進をサポートする形で動いています。

ーグループ全体での取り組みについて教えてください。

山岸 もともとグループ人権方針には、性的マイノリティの社員はもちろんお客さまもインクルージョンするといった内容が明記されています。D&Iを意識したビジネス推進は当たり前にやるべき、という素地があった点は非常に大きいです。

グループ全体では2021年から「Business for Marriage Equality」と「ビジネスによる LGBT平等サポート宣言」に賛同しておりまして、こちらは国内の金融機関として初めての賛同です。人権方針にマッチするものであれば、こうした企業協賛も積極的に進めるべきだという経営の考えに基づき賛同を行いました。

これらの賛同は、LGBTQ+フレンドリーであることを社外にPRするだけではなく、社内に対してもこのテーマに本気で取り組んでいくという組織の強い姿勢を見せることにもつながっています。

ー各社での主な取り組みを教えてください。

山岸 三井住友信託銀行では、2018年から住宅ローンにおいて同性パートナーを配偶者とみなす取り扱いを開始しました。同性パートナーを配偶者とみなすのは、クレジットカードの家族カード発行や、遺言信託においても同様です。

赤尾幸俊さん(以下、赤尾)  日興アセットマネジメントは、今年で設立65周年を迎えるのですが、2009年から三井住友トラスト・グループの一員となっております。金融企業のアライアンス「LGBT Finance」として2018年から東京レインボープライドの協賛を続けています。またレインボーリールへの協賛や、近年では役員を交えた懇親会なども行い、社内全体でDE&Iに取り組むという空気を醸成できています。

塩崎真理 さん 三井住友トラスト・パナソニックファイナンスは三井住友信託銀行とパナソニックホールディングスの資本背景を持っている総合ファイナンス会社で、法人から個人まで幅広いお客様に質の高い 金融サービスを提供しております。中期経営計画で最重要課題として「人財 」を挙げ 、 働き甲斐と全員が活躍できる環境を推進するために、性的マイノリティの方も働きやすい職場風土作りを進めております 。  

DE&Iの活動は始まったばかりですが、昨年の4月に社長が先頭を切ってアライ宣言をしまして、役員や店部長に研修を実施しました。役員・店部長がおよそ70名近くアライ表明をし、パレードへの参加などをしてきました。現在は全社員向けの研修などを経て783名 がアライを表明し、プライドイベント への参加も拡大してきています。

山岸 正直、まだまだ「グループ会社全社で取り組みが進んでいる」と言える状況ではありませんが、ひとつのKPIとして「Work With Pride」に参画するグループ会社を毎年、少しずつ増やしていこうという取り組みを進めており、現在は11社がゴールド認定を受けています。これはアワードを取ることが最終ゴールではなく、各社の推進フェーズに合わせて社内制度の拡充や研修実施を進め、取り組み段階としてゴールドを取れなかったとしても、関係会社同士が相互連携できる座組を大切にしています。

社会課題の解決に向けて
地域と連携して広がる取り組み

ー社外に向けた活動としてはどのようなものがありますか。

山岸 DE&Iに関しての取り組みには、全国の自治体とも共同で進めている取り組みがあります。同性婚が法制化されていない中で、各地域で独自にパートナーシップ制度を展開しているという状況を背景に、全国で画一的な取り組みだけではなく、各地域の自治体や団体に寄り添った情報発信を模索しています。

当社独自の冊子である「With You冊子」を自治体様と共同で制作し、同性婚が法制化されていないことで、どのようなお困りごとがあるか、現状ではどのような対応ができるか、そのほか地域独自の取り組みを訴求する内容を盛り込んでいます。

With You冊子

我々は、大切な方のために資産を預かり管理運用するという「信託機能」を事業の中核に持っている金融機関として、「信託の力」で社会課題に真正面から取り組みを進めています。現場の担当者も、同性パートナー間での相続をはじめ、法的な担保が不十分である現状を社会課題と捉えて、パッションを持って自分事化して各地で取り組みを進めています。

また、渋谷区とは、全国で初めてLGBTQ+当事者が安心して暮らせる社会を実現するための連携協定を締結しまして、継続性を持った取り組みを進めています。連携協定の締結が全てではもちろんないのですが、しっかりと形を残しながら、組織としてどのように取り組みを推進していくかを模索しています。

連携協定は、渋谷地域でアライを増やすということを一つの共通アジェンダとしながら、参画企業や団体の皆さんとのディスカッションや、勉強会や映画鑑賞会といったイベントを開催しています。「レインボーミーティング」はそのひとつで、地域の企業の業種や業界を超えて、アライを増やす取り組みです。回を重ねるごとに参加される企業や団体も増えてきまして、趣旨に共感・共鳴をいただいた場合には渋谷地域以外の方にもご参画いただいています。

今回の東京レインボープライド2024に際して、渋谷区の方からご提案いただいているのが、レインボーミーティングの参画企業も渋谷区が出展するブースに共同で参加するご提案をいただいています。例年、渋谷区のブースでは、渋谷地域の大学様とご一緒に取り組みを進められていたのですが、ここの我々のような企業が参加をすることによって、「産・官・学」での初の取り組みになると期待しています。初回となる今回はレインボーミーティングでの取り組みを訴求することを趣旨に、パネルの設置やチラシの配布を行う予定です。

ー東京レインボープライド2024ではグループとしての協賛をさらに拡大されました。

東京レインボープライドには以前から協賛を行っていましたが、会社としてのブース出展やパレードへの参加は出来ていない状況でした。グループ会社である日興アセットマネジメントが以前からパレードへの参加を進めており、グループとして連携を取ることで取り組みが大きく加速する流れとなりました。昨年度の東京レインボープライドには、三井住友信託銀行の人事統括役員と多くの社員が参加し、東京に限らず全国のプライドイベントへの参加の流れが広がり、各地の銀行の支店が中心となり協賛をしてきたのですが、徐々に関係会社を含めた取り組みへと発展してきています。この動き自体をしっかりと継続性のあるものにするために、グループ横断でのアライネットワークの形成に結びついています。

赤尾 東京レインボープライドへの協賛は「LGBT Finance」を通じて日興アセットマネジメントが先に行っていましたが、「レインボーミーティング」にはグループからの連携があって参加するといった形で、会社同士で相互に連携を深めていくような機運が高まった一年になったと思います。

ー初出展となるブースでは、どのような内容を予定されていますか。

山岸 我々グループの作るブースは「思いをつなぐお手伝い」をコンセプトにしています。特にアライを増やしていくことが社内外においても重要なメッセージだと考えています。今回はオリジナルのレインボーフラッグを来場の皆様にお配りし、アライを増やすことに微力ながらお力添えができたらと考えています。

日興アセットマネジメント グローバルテクノロジー本部/Japan LGBTQ グループ共同リーダー 赤尾幸俊さん

アライ表明から
アクティブ・アライへ

ー現状の課題や、今後の取り組みについてお聞かせください。

山岸 現状、全国各地で取り組みをリードしているパッションのある担当者に頼っている部分が大きいため、いかに継続性・再現性を持って続けていくのかという、仕組みづくりが重要かなと考えています。

これは弊社に限った話ではなく、一緒に取り組みを続けている各地域の自治体様とも同様の課題認識をしており、担当者が変わった途端に形骸化してしまうのは「よくある話」になりますので、そうならないようにと模索を続けています。

現在、三井住友信託銀行単体では、約5,000名近くアライバッジを持っているメンバーがおります。このアライバッジですが、我々はある意味「資格」のようなものと認識しておりまして、バッジをつけるのであれば最低限の理解や対応をしていただきたく、アライバッジ着用に関してのガイドラインを掲載した、リーフレットも合わせて社内配布をしています。

そのガイドラインを守れる方が資格登録をして、実際に日々の業務の中で着用するようにしています。実際、その銀行の支店でのアライバッジ着用が一番効果的でして、お客様からカミングアウトされ、遺贈のご相談をいただいた事例もあります。

三井住友信託銀行単体で1万人弱の社員がいるなかで、アライが5,000名というと多く感じるかもしれませんが、実際に自分たちで考えて行動ができる「アクティブ・アライ」がどれほどいるかを考えた時に、その部分は道半ばであると思っています。

プライドへの参加をはじめとした取り組みを通じて単純な存在としての「アライ」から、アクティブ・アライにつながっていくことに期待をしています。

ー東京レインボープライド2024のテーマは「変わるまで、あきらめない」です。グループとしてあきらめずに今後も続けることはなんでしょうか。

山岸 やはりアクティブ・アライを増やすことが重要だと考えます。知識を学んでアライを表明することはすぐにできても、実際その知識を活かして自分で行動できる、行動変容は簡単ではありません。

社内制度や福利厚生などは「Work With Pride」に準拠してある程度は整えたという認識はありますが、全社員が100%インクルーシブできているかというと、そのレベルにはまだまだ達していません。社員が自発的に考え、行動変容を起こすことで会社全体、グループ全体がより良い方向に進むことができると思いますので、しっかりと取り組みを続けていきたいと考えています。

また、実際に我々が取り組みを続けていることを社会に知っていただくことも、世の中的な安心感につながると考えています。我々にご相談をいただければ、何かしらのお手伝いができる可能性があるかと思います。我々のようなLGBTQ+フレンドリーな金融機関がいるということを、社会の皆様に知っていただけるよう、今後も取り組みを続けていきたいと思います。