スティグマがなくなるその日まで。ヴィーブヘルスケアが諦めずに続けていること

ヴィーブヘルスケアはHIV/AIDSの治療薬を専門で取り扱う製薬会社として2016年からTRPの大型スポンサーとして名を連ねている。コミュニティで活動を続ける数々のNPOとの協働や、新宿二丁目への啓発看板の掲示も続けている。常にコミュニティにコミットし続けるその原動力はどこにあるのか。ヴィーブヘルスケアの渉外・医療政策・患者支援を担当する笹井明日香さんに話を聞いた。

笹井明日香さん

取材・文/髙松孟晋 撮影/清原明音

ーヴィーブヘルスケアの昨年からの活動についてお聞かせください。

弊社は製薬会社のグラクソ・スミスクラインのグループ会社で、HIV/AIDS領域のスペシャリストカンパニーです。ヴィーブヘルスケアとしては2016年から東京レインボープライドにスポンサーとして協賛をしておりますが、数年前からは地方で行われるプライドにも協賛を行っています。

TRPほどの大きな規模のスポンサーではありませんが、昨年は札幌と九州のレインボープライドに協賛いたしました。そして今年は浜松のレインボープライドと、名古屋で行われるNLGR+というHIVなどセクシャルヘルスをテーマとしたイベントに協賛を行う予定です。

いまだ医療現場に残る
LGBTQ+に対する差別や偏見

昨年、同業の製薬会社6社で合同の勉強会を実施いたしました。社員を対象としたものではあるのですが、医療の現場における差別や偏見などの課題についてや、その対応や解決策について検討するといった内容を取り上げています。

ー医療現場での差別や偏見にはどのようなものがあるのでしょうか。

その勉強会で出てきたものの一つが、問診票における「性別欄」です。出生時の性別を記入してもらうことは、たとえば投与するお薬の量や種類、そしてその方の症状や疾患を判断するための情報になりえます。そうした理由から性別を書いてもらうことには目的があり、必要なことではあるのですが、説明がないまま記入をお願いすることで性別欄にどう書いていいかわからないという声がありました。

また、昔から聞くことではありますが、医療機関によっては病名告知や家族の同意に同性パートナーを認めないケースもありまして、そういったことで困る方は今でも少なくないというお話も出ました。

ーパートナーシップが認められつつある自治体も増えてきて、そういった話を聞くことは少なくなった印象ですが、まだまだ根強く残っているのですね。

私たちが普段顧客にしている医療従事者の皆さんはゲイ・バイセクシュアルの男性をご覧になっている方が多く、そういった問題についてはあまり聞く機会がなかったので、一般の医療機関ではいまだにそういったことがあるのかと逆に学ばせていただきました。

ー社内の取り組みについてはいかがでしょうか。

もともとグループ会社を横断するLGBTQ+アライの従業員リソースグループ(ERG)「Spectrum Japan」があるのですが、昨年はそのスポンサーとして弊社の役職者が二名就任してくれました。私たちは50人ほどの小さな会社なのですが、その中でも営業とMA(メディカルアフェアーズ※)という大きな部署のトップが手を挙げてくれたことは心強く思っています。

今まではグループのメンバーだけで啓発活動などを行っていましたが、スポンサーがついたことでより協力に社員の活動への参加や理解が進むのではと期待しています。

医学の専門知識を生かした情報提供や開発等に関わる専門部署

ー今後はどのような取り組みを予定していますか。

全社員向けのセクシャルマイノリティーについて考えるワークショップを予定しています。これまでは任意で参加できるような講演会やミーティングを中心に行ってきたのですが、全社での取り組みとして参加するものです。

単なる座学ということではなく、「もし自分がセクシャルマイノリティ当事者だったら」というテーマでの疑似体験や、それを踏まえてどういう反応をすればより良いかということを考えられる内容を企画しています。

お互いを尊重することや心理的安全性を担保することは、私たちの会社が目指すカルチャーの一つです。その取り組みを全社員で行うことでそういった風土をより根付かせることに繋がっていければと考えています。

コミュニティと手を取り合って
取り組みを続ける理由

私たちはHIVの治療薬を専門に扱う会社ですので、LGBTQ+コミュニティの中で予防啓発をしているNPOの皆さんと共に活動する機会を非常に多く持っています。TRPやパレードへの参加も、会社単体ではなくそれらのNPO法人と一緒にやっているというのが私たちの特徴であると思っています。

今年も私たちのブースではいくつかの団体の皆さんと協力し、同じ場所・同じテーマで出展する予定です。基本的な考え方は同じですが、今年はより、それぞれの繋がりが見えるような形のブースを予定しています。

コンテンツに関しましては、基本的にそれぞれのNPOの皆さんにお任せではあるのですが、スタンプラリーを実施しようと思っています。

それぞれの団体が最終的に目指すところは同じなのですが、予防に力を入れているところや検査に力を入れているところ、治療に力を入れているところなど活動意義は少しずつ違っています。ぜひ全てを回っていただいて、より深く理解できるようなブースにできればという思いでみんなで話し合っています。

ーヴィーブさんといえば、新宿二丁目に掲出している看板も長年続けていらっしゃいます。

看板の掲出は10年以上続けておりまして、昨年12月に新しいデザインに変更したのですけれども、変わるとそのことを取り上げていただけたりするんですね。あの看板の下を通りかかったときに、わざわざ見上げる人は少ないかもしれませんが、毎日目にしているうちに頭の片隅に残ってくれれば、それは継続する意味があると思います。

ーNPO法人との協働をはじめ、コミュニティにこんなにもコミットし続けている会社は他にいないのではと思います。

現場で当事者の方からも、私たちがこういったメッセージを発信し続けているからこそ勇気づけられたという声を少し聞くこともありまして、それはとても嬉しいことです。この波がもっと大きくなればいいなと思いながら、今後も活動を続けていきたいと思います。

TRPはもう何十万人もの人が参加する大きなイベントで、フェスティバル的な側面も強いものだと思うのですが、やはりただのお祭りではなくて、その多様性に富んだ人々や団体、セクターが一同に会して声を上げる機会だと私たちは考えています。

ー東京レインボープライド2024年のテーマは「変わるまで、あきらめない」です。ヴィーブは、まさにそれを体現している企業の一つではないでしょうか。

「変わるまで、あきらめない」というテーマは、もちろん「そのまま継続する」ということでもありますし、一回やっただけではドラスティックに変わるってことじゃないってことだと思います。ちょっとずつやり方を変える必要もあるかもしれません。

日本法人として活動をはじめて14年目になりますが、やはりHIVに対するスティグマ(※)は根強いものがありますし、そこにはセクシュアルマイノリティに対するスティグマももちろん含まれていると思います。

私たちはそれらのスティグマをなくしたいという思いで活動を続けています。一般の方も目にするような場所に広告をしたり、東京レインボープライドのようなイベントに参加して呼びかけたりしていますが、それらが終わっても急に「見方が変わったな」ということにはならないと思うんです。そういった無意識に持っている差別や偏見を取り除くことが簡単ではないことを踏まえて、ひとつひとつ、手を変え品を変え少しずつでも継続していくということが大事だと考えています。

当事者活動をしっかりやっているNPOや団体がいる中で、私たちのような民間企業がなぜお金を払ってスポンサーとして名前を連ねているのかという意味は、やはり営利にとどまらない「社会活動事業体」として企業が一緒に声を上げることで社会に変化を与えたいと考えていると知ってもらえるからだと思います。

NPOや企業、大使館や自治体、大学などたくさんのプライベートセクターが集まるこの東京レインボープライド2024を通じて、世の中を取り巻くルールみたいなものがLGBTQ+の人にとって良い方向に変化していくことを望んでやみません。

(※)…汚名・偏見